らだ》に迫ってきました。もう絶体絶命です。蟹は恐ろしく泡《あわ》を吹きながら、その大きな鋏《はさみ》を構えて、手を出したら最後、その指を椰子の実のようにチョン切ってやるぞと待っていました。そうなると人間の方でも、うっかり手が出せません。何やら大きな声で、下の方へ申しますと、洋服を着た男が、
「じゃこの網を君もって、のぼってくれ。」ともう一人の土人に言いつけました。そこでその土人は網をもって後から登ってまいりました。もう蟹は遁《のが》れることはできません。網を一打ち、バッサリとやられればそれでおしまいです。蟹はその時下を見ました。高い高い椰子の樹のてっぺんから見下《みおろ》したのは、深い深い底も知れない海、怪物が住まっている海でした。蟹はその中に自分も住まっているのですが、こう高いところから見下すと、不思議にぞっとする程気味が悪いのでした。で、そっちを見ないようにして、上の土人が網を受取っている暇《ひま》を狙《ねら》って、鋏をあげ、えらい勢《いきおい》でそいつを目がけて飛びついて行きました。べつにはさんでやろうというのではなく、ただ脅《おど》かしておいて、そのひまに遁《に》げるつもりだっ
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