》して話しておりました。
「たしか、この木にいるに相違ありません。」と、一人の土人が申しました。
「そうかね。」と、長い柄《え》の網をもった人がきらりと眼鏡《めがね》を光らせて、蟹の登っている枝のあたりを見上げました。
「成程《なるほど》、あの葉のかげに妙なものが見えるようだね。」
すると、もう一人の洋服を着た人が申しました。
「じゃ誰《だれ》か木に登って、つかまえて貰《もら》おうか。」
土人の一人は手でもって椰子の幹《みき》を抱き、足でもってそれを突張《つっぱ》りながら、そろそろと登ってまいりました。
樹の上で椰子蟹は、始めて自分をつかまえに来たものだとさとりました。一体これまで椰子蟹は誰からもつかまえられようとしたことはありませんでした。ただ土人の子供が時に追いかけるぐらいのことでしたから、今の今まで自分をおさえに来るのだとは思わず、安閑《あんかん》としていたのですが、登ってくる土人は、だんだんと近づいて来ますから、それにつれて自分もだんだん、上へ上へとのぼって行きました。そして、とうとうこれでもうおしまいというところまで来たとき、土人の手が用心しいしい、少しずつ自分の体《か
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