椰子蟹
宮原晃一郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)直《す》ぐ

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|匹《ぴき》の
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        一

 暑い暑い、どんな色の白い人でも、三日もおれば直《す》ぐ黒ん坊になる程暑い南洋の島々には椰子蟹《やしがに》がおります。椰子蟹て何? 椰子の実を喰《た》べる蟹です。じゃ椰子て何? 椰子は樹《き》です、棕櫚《しゅろ》に似た樹です。けれども実は胡桃《くるみ》に似ています。胡桃よりも、もっともっと大きな、胡桃を五十も合せた程大きな実です。胡桃のように堅い核《たね》が、柔かな肉の中にあります。それを割ると中からソーダ水のような甘酸っぱい水と、豚の脂《あぶら》のかたまったようなコプラというものが出て来ます。土人はそれを喰べます。私《わたくし》どもはそれで石鹸《せっけん》をつくります。椰子蟹はこのコプラを喰べて生きていますから、椰子蟹という名がつきました。

        二

 或《ある》島に一|匹《ぴき》の椰子蟹がおりました。大変おとなしい蟹で、珊瑚岩《さんごいわ》の穴に住まっておりました。潮《しお》
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