が退《ひ》くと、穴の口にお日様の光りが覗《のぞ》き込みます。すると宿主《やどぬし》の珊瑚虫《さんごちゅう》はブツブツ言いながら身をちぢめますが、蟹は大悦《おおよろこ》びで外へ出ます。青い青い広い海は、ところどころ白い泡《あわ》を立てております。そこにはまだ一度もじかにお日様にあったことのない隠れ岩があるのです。又或ところには大きな輪を置いたように岩が水の上に突き出て、その上に椰子の樹がぼさぼさと羽箒《はぼうき》を逆さにしたように立っております。輪の内は浪《なみ》がなくて、どんよりと青黒い水が幾千尋《いくちひろ》という深い海の底を隠しております。椰子蟹はまだこの深い底に行ってみたことはありませんでしたから、何がそこにあるか知りませんでした。ただ時々その青黒い水のどこからか、小さな金、銀、赤、青、黄など、さまざまの美しい色のお魚が、あわてて逃げて来ますと、すぐ後から、眼の凄《すご》い、口がお腹《なか》の辺についた、途方もない大きな鱶《ふか》が、矢のように追いかけてきて、そこいらの水を大風《おおかぜ》のように動かします。鱶は椰子蟹には害をしません。けれどもそんな時には穴へ引込むものだよと、小
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