さい時から母さまにおそわっているのでした。とにかくそれでみても、深い底には、とても思いもつかぬ不思議なものがいることが分ります。けれども椰子蟹はそんな下へ行く用事はありません。ただ上に行きさえすればよいのです。
蟹は穴を出て珊瑚岩をつたわって上《あが》りますと、もうそこはマングロヴの林です。潮が満ちたときは半分は隠れますが、潮がひいたときでも腰から下はやはり水の中にあって、小さなお魚がその幹《みき》の間に遊んでおります。
水を離れた蟹はお日様の熱ですぐ甲羅《こうら》がかわいてしまいます。けれども口の中にはちゃんと水気があるような仕掛《しかけ》が出来ていますから、目まいがすることはありません。
「お日様、お早うございます。今日《きょう》も又《また》椰子の実をいただきに出ました。」と、蟹はお日様に御礼を言います。お日様はにこにこしてだんだん高く空にお昇《のぼ》りになります。
その日も蟹は前の日に登った樹に、その長い爪《つめ》をたてて登りました。枝から枝をたぐって実をさがしますが、どうもよい実がありません。
「はてな、今日はもう誰《だれ》か他《ほか》の蟹が来たかしら?」と、見廻《みまわ
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