》してみても、他に蟹は一|匹《ぴき》もおりません。「人間が来たか知ら? だがこの島のなまけ者どもが、こんなに早く実を取りにくる筈《はず》がない。」と、言いながら、なお探《さが》しておりますと、たった一つ、どうやら熟しているらしい実を見付けました。
「うん、あったぞ。これなら甘《うま》いだろう。」と、蟹は、その大きな鋏《はさみ》を伸べて、チョキンと切って落しますと、椰子の実はストンと下へ落ち、肉が破けて、核《たね》があらわれました。蟹は急いで降りて、その鋏で、核をコンコンと叩《たた》きますと、美事に割れて、中から白いコプラが出ました。それをはさんで喰《た》べてみますと、渋くていけません。
「こりゃいけない。」と、蟹はブツブツ泡《あわ》を立てました。
三
蟹《かに》は今度はその隣りにある別の樹に登りました。けれどもやはりよい実がありません。どうしたものだろうと、なお探《さが》しているうち、ふと下の方で人の声がします。見れば半分裸のこの島の土人が四五人と、何か長い竿《さお》の先に丸い網をつけて、胴乱《どうらん》をさげた洋服姿の人が二人立って、木の上を見上げては指《ゆびさ
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