のだ。」
「仏軍は今度もきつと勝つにきまつてゐる!」
「いや、他《ほか》の点はどうかしらんが、大切な武器の方から見ては、それは覚束《おぼつか》ないぞ。」
「いつたな、黄猿《きざる》! おれはフランス大陸軍の名誉にかけて、貴様をゆるさんぞ。さあ、この作法が分かるか?」
ダンリ中尉は火のやうに怒つて手袋を地面にたゝきつけた。これは西洋では、決闘を挑《いど》むしるしである。
待つて下さい、諸君!
それから三日後である。上村《かみむら》少佐とダンリ中尉とは、約束の決闘場たる練兵場へ現れた。双方型どほり二人づつの介添人《かいぞへにん》がついてゐる。武器はピストルで、互に百歩はなれて介添人が上げてゐる手を下すのを合図に、双方一度に発射するのだ。発射が早いと卑怯《ひけふ》といはれるし、遅いと、敵の弾にやられてしまふ危険がある。なか/\むづかしいものだ。
やがて少佐も中尉も定《さだめ》の位置について、中尉方の一人の介添人が、今日の決闘の趣旨を宣言しようとしたとき、どうしたことか、上村少佐は突然右の手を高く上げて叫んだ。
「待つて下さい、諸君!」
相手の中尉は元より、双方の介添人た
前へ
次へ
全15ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング