ちも少佐の言葉にすつかり呆《あき》れてしまつた。が、少佐はそんなことには一切おかまひなく言葉をつゞけた。
「私《わたし》はこの決闘の仕方を、もつと安全なものにかへたいと思ふのです。」
 ます/\意外だ。みんなの驚きは一方ならぬものがあつた。
「つまり双方とも死にもせず、怪我もしないで、しかも名誉を十分に保つことの出来る方法にかへたいのです。」
 誰《だれ》も口をきかなかつた。けれども、みんな、少佐は決闘が恐《こは》くなつたので、今更こんなことをいひ出したものと思ひ、卑怯な人間だと内心|軽蔑《けいべつ》してゐるのを、顔の色にあり/\とあらはしてゐた。それももつともである。だが、少佐は少しもひるまない。平気で言葉をつゞけた。
「私《わたし》はこれまで幾十度となく銃砲弾の中をくゞつて来たから、ちつぽけなピストルの弾など少しも恐れるものではない。しかし、今、私の一身は、天皇陛下と、日本のために捧《ささ》げたもので、これから生ひ立つて行く日本の新陸軍のために、非常に重大な任務を帯びてゐるものであるから、つまらぬ名誉心のために、勝手にそれを殺したり、傷つけたりすることはできないのだ。」
 少佐の言
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