ダンリ中尉は勝つたと思つて、やつぱりニコ/\しながらその手を握りしめると、又あたりから盛んに拍手が起つた。
が、しかし、この拍手が一しきりやむと、上村少佐は再び銃を取上げ、容《かたち》をあらためて、一同に向かつていつた。
「諸君、私《わたし》は今、ダンリ中尉の妙技に絶大の敬意を表し、又フランスを祝賀するために、改めてダンリ中尉の真似をさせて頂きます。しかし、いさゝかちがつた風に、即《すなは》ち一字だけではなく、二三の言葉を射ぬくことにいたしませう。」
少佐は銃を肩に当てるが早いか、まづポンと一つ、無造作に打《ぶ》つ放し、それからこめては打ち、こめては打ちして釣瓶打《つるべうち》だ。その速いこと! だが、白紙の衝立に残つた弾の痕《あと》は唯《ただ》、めちやくちやに点がちらばつてゐるだけで、字なんか一つもかけてゐなかつた。見てゐる人々は唯《ただ》驚き呆《あき》れてゐる。けれども少佐は一向平気だ。そしてすました顔でいつた。
「これが私《わたし》の心をこめたフランスへお祝ひの言葉です!」
ダンリ中尉は例の肩をすぼめる身振をしていつた。
「ですが、少佐、あれは一体何と読むのですか。少くとも
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