フランス語ではありませんね。多分、日本語なんでせう。」
「いや、フランス語をかいたのです。」と、いひながら、上村少佐は衝立に近寄り、ポケツトから鉛筆を取出して、一番左端の上の弾痕《だんこん》から、その下の、六十|糎《センチ》ほどへだてて、少し右へ寄つた弾痕へ、斜にスツと一本の線をひき、更に今度はその点から、逆に上の方へ、最初の弾痕の右の方に三十糎ほどはなれて、同じ高さにならんでゐる第三の弾痕へ、スウツと一線をひいたのでV《ヴエ》の字が出来た。かうして散らばつた弾痕を次から次へと鉛筆でつないで行くと、
[#天から2字下げ]VIVE《ヴイヴ》 LA《ラ》 FRANCE《フランス》!  (フランス万歳!)
といふ言葉になつた。
 忽《たちま》ち、見事《ブラヴオ》! 見事《ブラヴオ》! といふ声が湧き起つて、上村少佐は仏軍将士のために胴上されて、しばらくは足が地につかなかつた。
 少佐は改めてプロシヤ軍の兵器について仏軍当局に注意したが、そのときにはもう遅かつた。仏軍の大敗は勿論《もちろん》士気、編制にもよるが、少佐が見破つた兵器の劣等であつたことも大なる原因であつた。
 上村少佐は帰朝後、こ
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