やしませんよ。大へん疑ひ深いんですから。」と、大女は言ひました。
「それはどうにかなりませうよ。」
 虹猫はそつとマンドリンをかき鳴らしながら考へてゐると、突然、大女は気がつきました。
「爺さんは、音楽が好きなんですよ。仕事をするのに大へん助けになるからですつて。だからもし、あなたが外を流してあるく旅音楽師の真似《まね》をなすつたら……」
 虹猫はよろこんで、とび上りました。
「そこだ。それぢや、あなた孔雀《くじやく》の羽を一本僕にかしてくれませんか。」
 大女はすぐ孔雀の羽をもつて来ました。
「どうもありがたう。これであなたは一時間たつたら、自由なからだになりませう。まづそれまで、しばらくさやうなら。」と、言つたかと思ふと、虹猫はひらりと身がるに窓からとび下りました。
 それから、すつかり外套《ぐわいたう》を着こみ、帽子を目深にかぶり、孔雀の羽を帽子の前の方にさしました。
「どうです。これですつかり旅の音楽師でせう。」と言つて、虹猫は大胆に魔法つかひのゐる塔へ行つて呼鈴《よびりん》をひきました。
 魔法つかひは自分で戸口に迎ひに出て来ました。けれども、ほんの僅《わづ》かばかりしか戸を
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