はそつと頭を上げてみますと、御所車の横の方の御簾《みす》が少しあがつて、そこからこちらを御覧になつておいでなさるのは、去年おぢいさんが負《おん》ぶして火事場をおにがし申した皇子さまでした。
「おや/\あれが皇子さまであつたのか。俺はえらいことをした。」と、おぢいさんは心のうちに思ひました。そのとき一人の舎人《とねり》がやつて来て、申しました。
「大納言の冠をかぶつた御老人、皇子さまのお召でございます。御行列の一番あとに入つてお城へおいで下さい。」
おぢいさんは宮城へつれていかれて、皇子をお助け申したといふので、御褒美《ごはうび》をいたゞけるのだと嬉《うれ》しく思ひましたけれど、又考へてみますと、冠をひろつてかぶり、山車をとめて、「ゆるす/\。」といつたことで、お叱《しか》りを受けるのではないかと恐しくも思ひました。
お行列がお城に着きますと、おぢいさんは御庭先へ呼び出されました。そこへみえましたのは皇子ではなくて、一人の大納言でした。
「去年皇居に火事があつたとき、皇子さまを負《おん》ぶしてお逃がし申したのはお前ぢやな。」と、その大納言が申しました。
「ヘイ/\私でございます。どう
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