あ、おぢいさんは愈々《いよいよ》面白くてたまりませんから、また山車の先まはりをして、それを駐めては、「ゆる――す、ゆる――す。」と、言つて歩きました。五六度もかうして山車をとめて、おぢいさんは子供がいたづらをするやうな気で、喜んでゐました。
 然《しか》しもう一度かうして山車を駐めるつもりで先廻りをしてゐますと、どうしたことか今度は未《ま》だおぢいさんの前に来ないうちに遠くの方で山車がとまつて動かなくなりました。そのうち見物してゐた人達は皆口々に、
「皇子さまがお通りなされるのだ。」と、言つて、さしてゐた日傘《ひがさ》をつぼめ、頭にかぶつてゐたものを脱ぎ、路傍《みちばた》にぺつたりと坐り込んでしまひました。
 皇子は黄金《きん》の金具のぴか/\と光る美しい御所車におのりになつて、ゆつくり/\と通つておいでになりました。見物人は皆額を土につけて御辞儀をしてをります。ところが不思議なことにはその御所車が丁度おぢいさんの前に来ますと、ぴつたりと駐つてしまひました。
「可笑《をか》しいぞ。山車のやうに俺がゆる――す、ゆる――すと言はなければ、これも又動き出さないのかしら。」と思つて、おぢいさん
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