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「もし大納言さま、どうぞゆるすと仰《おつ》しやつて下さい。でございませんと、山車が御前をとほつて参ることが出来ませんから……。」
 おぢいさんは「そら又大納言だ。俺はいつ大納言ちうものになつたか知ら、よし/\一つ威張つてやりませう。」と思つて、エヘン/\ともつたいぶつて咳払《せきばら》ひを致しまして、
「ゆる――す、ゆる――す。」と、申しました。
 そう致しますと山車は又|賑《にぎや》かに囃《はや》し立てゝ通つて行きました。そこでおぢいさんは「これは面白いぞ、も一度山車をとめてやらう。」と考へ、別な道から先廻《さきまは》りをして、山車のくるのを待つておりました。
 山車はおぢいさんの前へ来ますと、又ぴつたりと駐つて、動かなくなりました。
「さあ今に何とか言ひにくるだらう。」と待つてをりますと、そのとほり又人がやつて参りまして、
「大納言様、どうぞゆるすと仰しやつて下さいませ。でございませんと山車が御前を通つて参ることが出来ませんから……。」と申しました。おぢいさんは大威張りで、
「ゆる――す、ゆる――す、とほれ/\。」と、申しますと、山車が又面白く囃し立てゝ動き出しました。
 さ
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