さと》へ帰りたい一念は押へきれず、只《ただ》ひとり、ヒラリ/\と天をさして昇りました。


    四

 昨日と経《た》ち今日と過ぎ、忽《たちま》ち三四年経つてしまひました。けれども明暮《あけくれ》子良《しりやう》がどんなに待つても天人の母は帰つて来ません。どうなつたものやら風の便りすらないのでした。
 子良はもう立派な漁夫《れふし》の少年です。親父《おやぢ》の伯良《はくりやう》を扶《たす》けて漁に出ます。けれども母のことばかり考へてゐました。子良の幼ない記憶に残る母は鼻の高い、色の真白《まつしろ》な、せいの高い美しい人でした。子良はその母が目について忘れられないのでした。
「お前が天《あめ》の羽衣の隠してある処《とこ》を教へたりなんかするから、お母《ふくろ》は去《い》つちまつたんだよ。だが彼《あ》の女は遉《さす》が天の者だけに子供の可愛いことを知らんと見える、人情がないね。」
 伯良は子良がぼんやりと外の松の樹《き》の下に立つて母の飛んで行つた空を眺《なが》めてゐるのを見ると、よくこんな愚痴《ぐち》まじりの小言のやうなことを言ひました。
 そのうちもう二年経ちました。或《あ》る日矢
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