かも知れないぜ。」
 次郎作はびつくりして聞きかへしました。――
「どうして?」
「それはね、巨人が若《も》しか強く内の方へ息を吸ひ込んだら、そのはづみに俺達は、鼻の孔から腸の中へ落ちていかないとも限らないからだ。」
「それは困つたな。どうかしてそんなことにならない工夫はないかしら。」
「ないよ……だがね、せめてはお互にまだ無事でゐるつてことを生きてゐる間は知らせ合はふぢやないかえ。だからかうするんだ。時々巨人の鼻の障子を鎌か鍬で叩《たた》いて合図をするんだ。」
「うん、それがよからう。ぢやさうしよう。」
 二人はかう約束して、恐る/\鼻の入口から入つて、先づ鎌で藪《やぶ》のやうに生えた鼻毛を苅《か》り、鍬で鼻の垢《あか》を掘りしては、鼻の障子を叩いて、無事でゐることを互に知らせ合ひました。けれどもその仕事は危いものでした。
 なぜかつていへば、巨人がたえず息を呼吸してゐるのが、鼻の毛をまるで強い風が林を吹くやうに音を立てゝ動かして通り、うつかりすると、仙蔵が気遣つたとほりに吸ひ込まれたり、又吹き倒されさうになつたりするからでした。
 しかしそれでも鼻の孔の半分までは無事に掃除をすまし
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