。俺達《おれたち》が美《い》い声で唄つてやりさへすれば悦《よろこ》んでゐるのだから……」
「でもいつまでもこゝにつかまつてゐた日にやもう日本へ帰ることも出来ないが、どうかして逃げ出す工夫もないだらうか?」
「さうだな、俺《おれ》もそのことを考へてゐるんだ。お前だつて俺だつて、家《うち》にや親兄弟もあれば、女房や子供もあるんだから、生きてゐるからにや一度は帰りたいものだ。」
「ぢや今夜逃げよう。」
「さうだ、巨人達が寝てから、こつそりと海岸へ逃げて行かう。まだ乗つて来た舟もあるから、あれで沖へ出てしまへば、それからさきは又どうにか考へをつけよう。」
二人はすつかり相談をきめました。
程なく孫の巨人がグウー、ゴーと、まるで大きな岩穴へ、嵐《あらし》が吹き入るやうな鼾《いびき》をかいて眠つてしまひましたので、二人はこつそりと手を引き合つて、逃げ出しました。
「次郎作、しつかりしろよ!」
「よし、合点だ! でも暗くて方角が知れない。」
「蒲団《ふとん》の中だから暗いんだ。どつちにでも走つて、早く端に出ることだ。」
二人は一生懸命に走り出しました。けれどもまちがつて裾《すそ》の方へ走つたと
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