はふ》り込んだ。
「やツ! えらいぞ中原! 出かしたぞ、下村!」
 掌砲長が嬉《うれ》しさうに叫んだ。
 しかし下村も中原も、そんなことはまるで知らないものゝやうに、たゞ一心に魚雷の進行を見つめてゐた。
「うまいぞ! あれを見ろ、下村!」
 中原は今しも百メートルばかり向ふの水面を浅く、大鯨《おほくぢら》のやうに浪《なみ》の畝《うね》を立てて、まつしぐらに敵艦目がけて突進する魚雷を指さした。魚雷は発射されてから、命中するまで、やゝ長い時間がかゝるので、その間に敵が気づいて、艦《ふね》の向《むき》を変へたら、或《あるひ》は外《そ》れるかも知れない。
「気づかないでくれ、気づかないでくれ。」
 二人の少年は一心不乱に神を念じた。一秒、二秒と時が経《た》つて、魚雷は与へられた方向にまつしぐらに飛んで行く。
「あツ、とう/\見つけた!」と、中原が叫んだ。敵艦から海面めがけてパチ/\と小銃や機関銃を放す音が聞えた。
「へツ! 魚雷を撃沈するつもりだな。さうはいかないぞ! ――そら、とうとう艦《ふね》の向を変へたぞ、畜生奴《ちくしやうめ》!」と、下村は残念さうにうなつた。
 が、少し遅かつた。「ウ
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