ルフ号」がまだ、十分に位置を変へきらないうちに水雷はその後部水線下に命中した。小山のやうな水柱がその大きな半身を包むのが見えると、次いで、海の底で火山でも爆発したやうな物凄《ものすご》い音がとゞろき渡り、約三千メートルの距離にある豊国丸《ほうこくまる》までがビリ/\と震へた。二十一インチの魚雷が「ウルフ号」のどてつ腹をゑぐ[#「ゑぐ」に傍点]つて、大孔《おほあな》をあけたのだつた。
やがて水煙がをさまつた時には、敵の巨艦は、もう後部甲板まで水にひたつてゐたが、やがてそろ/\と艦首を天に向けて、次第々々に浪の底へ沈んで行つた。後には大きなうづ[#「うづ」に傍点]と、黒豆をぶちまけたやうに、溺《おぼ》れる乗組員の姿が見えた。
「万歳、万歳!」
豊国丸の船上には素晴しい万歳の叫が起つた。
下村と中原は感激して、抱き合ひながらおん/\声をあげて泣いた。
と、その耳にはつきり聞えたのは、船長に代つてこの船の指揮をとる一等運転士の声であつた。
「二番|艙《さう》、三番艙浸水。総員ポンプへ!」
無線電信室からは救難信号S・O・Sの電波が空中へ散つてゐる。
「伊吹《いぶき》」は全速力で救助に
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