しなかつた。
魚雷は小さな潜水艦のやうな姿を、甲板の上にあらはした。磨《みが》き上げたその表面は白金のやうに輝いてゐる。敵弾の飛んでくるのはよほど少くなつたが、それでもまだぞく/″\命中する。その中を、中原は必死の覚悟で、水雷発射の準備に夢中になつてゐる。が、熟練した水雷士官でも、これはよほど難しい。それを僅《わづ》か十七歳の少年が、見覚え、聞覚えでやるのだ。成功するか知ら? 危ないものだ!
いや、しかし、中原の父は魚雷の発射にかけては天才と言はれた人だつた。その子の彼に、この天才が伝はつてゐないとは誰《だれ》が断言出来よう。
「ようし!」
中原は準備を終つて、すばやく魚雷から飛び下りた。と、下村はすかさず巻揚機《ウインチ》をあやつつて、軽々と吊るした魚雷をそろそろ水面近く下した。中原は舷側《げんそく》に立つて、右の手を上げ、敵艦を睨《にら》んで立つてゐる。息づまるやうな緊張の十数秒だ!
「三千メートル!」
彼の耳に誰《だれ》やらがさう叫んだやうだつた。彼はさつと、合図の手を振つて叫んだ。
「オーライ!」
下村は巧みに巻揚機《ウインチ》にはずみをつけて、ざんぶと魚雷を水へ抛《
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