だらう。信号簿をくつて見るまでもないや。」
「生意気な!」と、下村がそれを受継いで呶鳴《どな》つた時、ドンとすさまじい音を立てて、こつちの十二サンチが打出した。それと同時に檣頭高く日章旗が翻つた。これが「ウルフ号」の信号に対する日本男児の答であつた。
「うまいぞ、かう来なくちや!」
下村がむやみに興奮してゐるうち、豊国丸は続けさまに打《ぶ》つ放した。
一発遠く、二発近く、三発命中!
命中、又命中、四門ではあるが砲射の技術にかけては、世界にほこる日本の海軍兵だ。見る/\「ウルフ号」の甲板は滅茶滅茶《めちやめちや》に打ちこはされた。勿論《もちろん》、敵もこれしきのことにひるむやうな弱虫ではない。その十八サンチの主砲をはじめ、十サンチの副砲が猛烈に火をふきだした。しかし、敵はこちらを余りに弱いものと見くびつて、油断をしてゐたので、はじめの程の砲撃は徒《いたづら》に魚を驚かしたに過ぎなかつた。
とは言へ、大人と子供とでは角力にならない。間もなく独艦の精鋭クルツプ砲は恐るべき威力を見せ出した。十八サンチの一弾は豊国丸の煙筒《えんとつ》を根本からもぎ取つた。十サンチの砲弾は舷側に蜂《はち》
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