。そいつは手廻《てまは》しがいゝな。ぢや断然やれよ。俺《おれ》も手伝はあ。貴様が発射した魚雷で、巨艦『ウルフ』が海の底に深く沈むなんざア愉快だ!」
下村は単純で、無邪気な少年だ。もはや敵艦を沈めてしまつたやうな燥《はしや》ぎやうだ。
「ところが君、」と、中原はちよつと困つた顔をした。「二十一インチの魚雷ときたら、いゝ加減のボートぐらゐの大きさがあるから、大人でも、一人や二人の腕ぢや扱へないんだ。」
「それなら何でもない。」と、下村はすぐに言つた。「巻揚機《ウインチ》を使ふさ。俺はその方にかけちや名人だ。巻上げるんでも、振り落すんでも自由自在だ。」
「フム。」と、中原はしばらく考へてゐたが、半ば独言《ひとりごと》のやうに、
「さうだ、後部の巻揚機《ウインチ》で上甲板まで上げて、ちやんと準備をしてから、水ん中へ振り落してやれば、あとは水雷がひとりでに仕事をする。」
中原がこゝまで言ひかけたとき、船橋《ブリツヂ》の方で、けたゝましく喇叭《らつぱ》が鳴つた。
「おうツ、非常喇叭だ!」
二人はとび上つた。そして、右舷《うげん》近くへ走りよつて、敵はどこ? と見渡すと……
見える、見える!
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