誰《だれ》もそばへは寄らないのでした。
「さうね。タクマールの幽霊がでるといふから、さうかも知れないわ。ジウラさん、ひとつ、行つて、正体を見届けちやどう」と、ニナール姫は笑ひながら言ひました。
「いやだ! 僕《ぼく》、こわい。もう内へ帰つて、ねませう。おそいぢやないの、今夜は!」
 ジウラ王子はさういふと、もう立ち上がつて、家《うち》へ帰りかけました。すると、ニナール姫は、からかつてやりたい気持が一そう加はつて、ジウラ王子を捕へて放しません。
「何んですね、将来、蒙古《もうこ》の王様になる人が、そんないくぢなしで、どうしますか。さあ、私《わたし》が、あの入口まで送つてあげますから、一つ探見していらつしやい」
「いやだ/\、僕、こわい。」
 ジウラ王子はなか/\行かうとはしません。けれども、ニナール姫は、お父様が、さきに言つたことを想出《おもひだ》してゐたので、むりにジウラ王子をひきずるやうにして、黒いラマ塔のところへつれて行つたのでした。ニナール姫がさうしたのは、丁度、その日、お父様が、ジウラ王子の胆《きも》をねるために、ひとりで、あの幽霊塔に行かしてみようと言はれたのを、おぼえてゐた
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