ぢいさま》がいたゞいたものでした。
時計が、十一時を打ちきつたとき、ジウラ王子はどうしたのか、俄《にはか》にニナール姫の腕にすがりつくやうにして、恐ろしさうに、さゝやきました。
「ニナール、あれ何、何《な》んの光?」
ジウラ王子の指は、向ふに、怪物のやうに、黒々と聳《そび》えてゐる、ラマ塔をさしてゐました。
まつたく、平生、人のゐないラマ塔の下の階《きざはし》から、小さな火の光りがちらちらと見えました。ふつと消えたかと思へば、また黄色く光り出して、丁度草の中の螢《ほたる》かなぞのやうでした。
それを見ると、ニナール姫も、胸がドキ/\しました。
ラマ塔は昔、このお城がラマ仏教のお寺であつたとき、建つた、ずゐぶん古《ふ》るいものですが、アイチャンキャラ侯の先祖が、これを取つてからのち、或時《あるとき》、外敵にせめられて、一時これを占領されたことがありました。そのとき、タクマールといふ勇敢な娘が、僅《わづ》か十八歳の身で、その年下の弟や妹たちを助けて、この塔に立てこもり、最後まで敵と戦つて、とう/\切り死にしました。それでラマ塔には、タクマールの幽霊が出るといふ噂《うはさ》があつて
前へ
次へ
全24ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮原 晃一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング