から、心の底では、亡くなつたお母様のやさしい言葉や、美しかつた姿を、始終思ひ出して、人知れず涙をながすことがありました。つまり、烈《はげ》しい運動や、勇ましい武術をするのも、それに心をまぎらして、こんな悲しい思ひを、なるべく、少なくしようといふのでした。
二 ラマ塔の燈火
それから一週間ほど経《た》つた、美しい、晴れた夜でした。ニナール姫と、ジウラ王子とは、お城の庭に出て、新鮮な空気を吸つてゐました。このあたりは、満洲《まんしう》でも、ずつと北によつてゐるので、夏は日のくれるのが、大へんおそいので、人はよく夜ふかしをするのでした。
バラに似た花の香りがして、時鳥《ほととぎす》のやうな鳥の声が聞えました。と、お城の広間の時計が、地の底まで沈むやうな深い音をたゝて、ヂーン/\と十一時を打ちました。この時計はずつと昔、支那《しな》がまだ清国《しんこく》といつた頃《ころ》、北京《ペキン》の宮城の万寿山《まんじゆさん》の御殿にかけてあつたもので、その頃、皇帝よりも勢ひをもつた西太后《せいたいごう》(皇太后)の御機嫌《ごきげん》とりに、外国から贈つたものを、ニナール姫のお祖父様《
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