からでした。だから、そのあかりも、或《あるひ》はお父様のいひつけで、誰《だれ》かゞとぼしてゐるかも知れないと、そんなふうにも思つたのです。
ラマ塔はぢきそこにあるやうでしたが、実は雑木の小さな森を通つて、谷のふちへ出て、それからそこにある橋をわたつて、小さな山のふもとまで、三百メートルも行かなければならないのでした。塔の上には、青黒い空に、星がきら/\と光つてゐました。
「さあ、これから先きはジウラさんひとりで行くのよ」と、ニナール姫は言ひました。「あの塔の光りが何んだか、見届けていらつしやい。もし悪《わ》る者でもゐたら、これで打つておしまひなさい」
ニナール姫は闇《やみ》にも光るピストルを、ふるへてゐるジウラ王子の手に渡しました。
「私、こゝで待つてゐますからね。勇気をふるつて行くんですよ」
けれどもジウラ王子はまだぐづ/\してゐるので、ニナール姫は、その背をポンと一つつきました。ジウラ王子はフラ/\と仆《たふ》れさうな足取りで、高くしげつた夏草の中を、がさ/\と分けて行きました。そして間もなくすぐ目の前に小山のやうにそびえ立つ、まつ黒なラマ塔は、小さなジウラ王子の姿を呑んで
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