仏像の横の方へ走つてゐました。
「あの仏像が怪しいわ!」
 ニナール姫は、向つて右端の仏像をゆびさしながら、その足跡をつけて行きました。
「怪しいといつて、この仏像の中にでも、ジウラがかくしてあるといふのかい」と、キャラ侯もニナール姫について行つて、その仏像を見上げました。
 そこへ、守備隊長が来て、仏像の台坐のまはりを、手で押してみたり、叩《たた》いてみたりしましたが、ビクともしません。
「どうも、お姫様、今度はお考へがちがつたやうですね」
「いゝえ」と、ニナール姫は強く首を横に振りました。「間違ひありません。ほら、この仏像を外のと比《く》らべて御覧なさい。一目で、ちがつてゐることが分りませう」
 然し、隊長の目にも、キャラ侯の目にも、それは、外のと同じ、奇怪な、醜い、恐ろしいやうなラマ仏でしかありませんでした。
「分りませんか。これを御覧なさい」と、ニナール姫は仏像の膝《ひざ》のあたりから、台坐の下まで、なで下ろすやうな手附《てつき》をしました。「それね、あすこだけ埃がとれて、縞《しま》になつてゐるでせう。他《ほか》の仏像は埃を一めんにかぶつて、そんな縞がないぢやないの。だから、こ
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