と彼を見つめました。
『何でもない、姫や、何でもないんだよ!』マイダスは言いました。『冷《さ》めないうちにミルクをおあがり。』
 彼は皿の上のおいしそうな川鱒を一尾取って、試験の意味で、その尻尾《しっぽ》を指でさわって見ました。驚いたことには、そのおいしそうに出来た川鱒のフライが、金の魚になってしまいました。但し金の魚といっても、客間の装飾としてガラス鉢の中によく飼われているような金魚になったのではありません。そうじゃなくて、本当に金で出来た魚になったのでした。そして、世界一の金細工師の手でたくみに作られたかのように見えました。その小さな骨は、今では金の針金となり、鰭《ひれ》と尻尾とは薄い金の板となり、フォークで突ついた痕《あと》までついていて、上手に揚がった魚の、こまかい、つぶつぶした外観までが、すべてそっくりそのまま金で出来ているのでした。君達も想像がつくことと思うが、実にきれいな細工物でした。ただマイダス王も、この時ばかりは、こんな手の込んだ、高価な魚の模型よりも、真物《ほんもの》の川鱒がお皿に乗っていた方がどんなにいいか知れないと思いました。
『これじゃ一体どうして朝飯を食べた
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