りに描いてある奇妙な人物や、変った木や家を見て、いつも喜んでいたのに、今ではそれらの絵がすっかり金の黄色の中に消え去っていたからです。
その間にマイダスは、一杯のコーヒーを注《つ》いでいました。勿論コーヒー注ぎも、彼がそれを取り上げた時はどんな金属《かね》で出来ていたにせよ、それを下に置いた時にはもう金になっていました。彼は自分みたいな質素な日常を送る王様としては、金づくめの食器で朝飯をたべるなんて、随分贅沢なやり方だなあと、独りで考えました。そして、こんな風にどんどん出来て来る宝物を安全にしまっておくことは容易じゃないので、閉口し始めました。もはや戸棚や台所では、金の鉢やコーヒー注ぎのような高価なものをしまっておく場所としては、大丈夫とは云えませんでした。
こんなことを考えながら、彼はコーヒーを一匙すくって口へ持って行きました。そしてすすって見て、それが唇に触れた瞬間に、熔かした金になり、次の瞬間には、金のかたまりになったのを見てびっくりしました。
『はあ!』マイダスはすこしあきれて叫びました。
『どうしたの、お父さま?』と小さなメアリゴウルドは尋ねて、目に涙をためたままで、じっ
前へ
次へ
全307ページ中93ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三宅 幾三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング