いわれぬ香気《におい》をただよわせていました。それらの薔薇の、美しい赤らみは、ほかではちょっと見られない程のもので、とてもやさしく、つつましく、何ともいえない静かさに満ちていました。
 しかしマイダスは、彼一流の考え方から云って、この庭の薔薇を、今までのどんな薔薇よりもずっと値打のあるものとする方法を知っていました。そこで彼は一生けんめいに薔薇の藪から藪へと飛び廻って、とても根気よく彼の魔力を振《ふる》いましたので、とうとう花も蕾も一つ残らず、いやその心《しん》にもぐっていた虫までが、金になってしまいました。この結構な仕事がすっかり終らないうちに、マイダス王は朝飯に呼ばれましたが、朝の空気のために大変お腹《なか》がすいていたので、急いで宮殿へ帰って行きました。
 マイダスの時代には、王様の朝御飯がどんなものだったかは、僕は本当に知らないし、又ここでそれを穿鑿《せんさく》しているわけにもゆきません。しかし、この記念すべき朝の食卓には、ホットケイキ、おいしい小さな川鱒《かわます》、ロース焼の馬鈴薯《ばれいしょ》、新鮮な茹卵《ゆでたまご》、それからコーヒーなどをマイダスに、そして姫のメアリゴ
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