スは思いました。
『しかし、大したことじゃない、』と、マイダスは大変落着いて、独り言をいいました。『多少の不便が伴わないで、大変いいことがあるなんて思うのは虫がよすぎるんだ。さわれば何でも金になるような力のためには、少なくとも盲《めくら》にさえならなければ、眼鏡の一つ位は棒に振ってもいい。わしの目は普通のことには不自由はしないし、それに小さなメアリゴウルドも、じきにものを読んで聞かせてくれる位の大きさにはなるだろう。』
お目出度いマイダス王は、彼の幸運をあんまり喜んでしまって、王宮さえも彼がはいっているには少し狭いような気がしました。そこで彼は階下《した》へ下りて行きましたが、そのとき彼が手でずうっと撫でて下りた階段の手欄《てすり》が、磨いた金の棒になってしまったので、またにこにこ顔になりました。彼は扉の※[#「金+巽」、第4水準2−91−37]《かきがね》を上げて(それもほんの今し方まで真鍮だったものが、彼の指が離れた時にはもう金になっていた)、庭へ出ました。ちょうどそこでは、沢山の美しい薔薇が満開で、そのほかに蕾やら、八分咲きやら、いろいろありました。それが朝のそよ風の中に、えも
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