した。
 どうしたわけか、このハンカチが金になったということだけは、マイダス王もあまりうれしく思いませんでした。彼も、小さな姫の手芸品だけは、姫が彼の膝に上って、彼の手に渡した時そのままであってほしかったのです。
 しかし些細《ささい》なことで気を揉んでもつまりません。マイダスはそこで、自分のやっていることを一層はっきりと見るために、ポケットから眼鏡を取り出して、鼻にかけました。その時分には、一般の人達が使う眼鏡は出来ていなかったが、王様達はもうかけていました。でなければ、どうしてマイダスだって眼鏡を持っている筈がありましょう? ところが、彼が大変|面喰《めんくら》ったことには、そのガラスは上等だのに、ちっとも見えないことが分ったのです。しかしこれほど当り前なことはないわけで、というのは、はずして見ると、透徹《すきとお》っていた筈の上等ガラスが、金の板になってしまっていて、勿論、金としては値打があっても、眼鏡としては使いものにならなくなっていたからでした。いくらお金があっても、役に立つだけの眼鏡を二度と持つことが出来ないような貧乏人も同様になったということは、どうも困ったことだとマイダ
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