かみました。彼が寝台の柱の一つをつかむと、それはたちまち丸溝《まるみぞ》のついた金の柱になりました。彼は自分がおこなっている奇蹟を、もっとはっきりと見るために、窓掛を一枚引きよせましたが、窓掛の総《ふさ》がまた手の中で重くなったと思うと――もう金のかたまりになっていました。彼は机から一冊の本を取上げました。ちょっとさわっただけで、その本はわれわれが近頃よく見るような立派な装幀《そうてい》の、金縁《きんぶち》の本みたいになりましたが、指を紙の間に通すと、これはしたり! それは金箔を綴《と》じたようになって、中に書いてあった立派な文句はすっかり見えなくなってしまいました。彼は急《いそ》いで着物を着ました。それがまた金の布地で仕立てた堂々たる衣装に変ったので、彼は夢中になりました。それはいくらかその重みで、荷になるような気がしましたが、地質の柔軟《やわらか》さはもとのままに残っていました。彼は小さなメアリゴウルドが縁取《ふちどり》をしてくれたハンカチを取り出しました。そのハンカチもまた、可愛いメアリゴウルドが手際よく、きれいに縁をずうっと縫ったあとが金糸となってついたまま、金になってしまいま
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