たのに、何でもちょっとさわって金にしてしまうというのではなくて、相変らず普通の方法で、わずかな金を掻き集めて行くことに満足しなければならないとしたら、どんなにつまらないでしょう!
その時はまだ明け方のうす暗がりで、東の空の下の方が、ほんの一すじ明るくなっていただけでしたが、マイダスの寝ているところからは、それは見えませんでした。彼は大変がっかりした気持になって、あてがはずれてしまったのをいまいましく思い、だんだん悲しくなるばかりでしたが、そのうちにとうとう朝の最初の日影が窓からさしこんで来て、彼の頭の上の天井を金色に染めました。マイダスには、この黄色い日影が、寝床の白い覆布《おおい》に何だか変な風にうつっているような気がしました。それをもっとよく見て、リンネルの布地が、まるでまじりけのない、きらきらした金の織物のように変っていたことを知った時の彼の驚きと喜びとはどんなだったでしょう! さわれば何でも金になる力が、朝日の光と一しょに、彼に授ったではありませんか!
マイダスは喜びのあまり、気違いのようになって飛び起きました。そして部屋中を駆け廻って、何でもその辺にある物を手当り次第につ
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