が少なくなった。出産の準備《したく》に混乱した家の中で私は孤独《ひとり》をつくづく[#「つくづく」に傍点]淋しいと思った。お祖母様のお気に入りで夜も廊下続きの隠居所に寝る姉も、そのころ習い初めた琴を弾《ひ》くことさえ止められて、一人で人形を抱《かか》えては、遊び相手を欲しがって常は疳癪《かんしゃく》を恐れて避けている弟をもお祖母様の傍《そば》に呼んで飯事《ままごと》の旦那《だんな》様にするのであったが、それもじきと私の方で飽きが来てふと[#「ふと」に傍点]したことから腕白が出ては姉を泣かすのでお祖母様や乳母に叱られる種となった。腕白盛《いたずらざか》りの坊ちゃんは「静かにしていらっしゃい」と言われて人気の少ない、室の片隅に手遊品《てあそび》を並べてもしばらく経《た》つと厭《いや》になって忙しい人々に相手を求めるので「ちっとお庭にでも出てお遊びなさい」と家の内から追い立てられる。
黒土の上に透き間もない苔は木立の間に形ばかり付いていた小道をも埋《うず》めて踏めばじとじと[#「じとじと」に傍点]と音もなく水の湧《わ》き出る小暗い庭は、話に聞いたいろいろの恐ろしい物の住家のように思われ、自
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