》めた。なぜということはなしに私は町っ子と遊んではいけないものだと思っているほど幼なかった。そのころ私は毎晩母の懐《ふところ》に抱《いだ》かれて、竹取の翁《おきな》が見つけた小さいお姫様や、継母《ままはは》にいじめられる可哀《かわい》そうな落窪《おちくぼ》のお話を他人事《ひとごと》とは思わずに身にしみて、時には涙を溢《こぼ》して聞きながらいつかしら寝入るのであったがある晩から私は乳母に添い寝されるようになった。
「もうじき赤さんがお生まれになると、新様《しんさま》はお兄いさんにおなりになるのですから、お母様に甘ったれていらっしゃってはいけません」
 と言い聞かされて、私は小さい赤坊《あかんぼ》の兄になるのを嬉《うれ》しくは思ったが母の懐に別れなければならないことの悲しさに涙ぐまれて冷たい乳母の胸に顔を押し当てた。
 間もなく母は寝所を出ない身となった。家内の者は何かしら気忙《きぜわ》しそうに、物言いも声を潜めるようになり相手をしてくれることもなくなった。私の乳母さえも年役に、若い女のともすれば騒ぎたがるのを叱《しか》りながらそわそわ[#「そわそわ」に傍点]立ち働いていて私をば顧みること
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