山の手の子
水上滝太郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)悲哀《かなしみ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)力|充分《いっぱい》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+扇」、18−上−14]《あお》ぎながら
−−
お屋敷の子と生まれた悲哀《かなしみ》を、しみじみと知り初《そ》めたのはいつからであったろう。
一日《ひとひ》一日と限りなき喜悦《よろこび》に満ちた世界に近づいて行くのだと、未来を待った少年の若々しい心も、時の進行《すすみ》につれていつかしら、何気なく過ぎて来た帰らぬ昨日《きのう》に、身も魂も投げ出して追憶の甘き愁《うれ》いに耽《ふけ》りたいというはかない慰藉《なぐさめ》を弄《もてあそ》ぶようになってから、私は私にいつもこう尋ねるのであった。
山の手の高台もやがて尽きようというだらだら坂をちょうど登りきった角屋敷の黒門の中に生まれた私は、幼《いとけな》き日の自分をその黒門と切り離して想《おも》い起すことは
次へ
全38ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
水上 滝太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング