の独楽《こま》、凧《たこ》、太鼓、そんな物に飽きたお屋敷の子は珍物《めずらしもの》好きの心から烈《はげ》しい異国趣味に陥って何でも上等舶来と言われなければ喜ばなかった。長崎屋の筋向うの玩具《おもちゃ》屋の、私はいい花客《おとくい》だった。洋刀《サアベル》、喇叭《らっぱ》、鉄砲を肩に、腰にした坊ちゃんの勇ましい姿を坂下の子らはどんなに羨《うらや》ましく妬《ねた》ましく見送ったろう。いつだったか父母《ちちはは》が旅中お祖母《ばあ》様とお留守居の御褒美《ごほうび》に西洋木馬を買っていただいたのもその家であった。白斑《ぶち》の大きな木馬の鞍《くら》の上に小さい主人が、両足を蹈《ふ》ん張って跨《また》がると、白い房々した鬣《たてがみ》を動かして馬は前後に揺れるのだった。
「マア、玩具にまで何両という品が出来るのですかねえ、今時の子供は幸福《しあわせ》ですねえ」
 とお祖母様はニコニコ[#「ニコニコ」に傍点]して見ていらっしゃった。玩具屋の側《かわ》を次第に下って行くと坂の下には絵双紙屋があった。この店には千代紙を買いに行く、私の姉のお河童《かっぱ》さんの姿もしばしば見えた。芳年《よしとし》の三十
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