ゃんの仲よしのお鶴さんでしょう。坊ちゃんはお鶴さんでなくっちゃいけないんだねえ。私ともちっと仲よしにおなりな」
 娘は面白そうに笑った。
 夕食の後、家内の者は団扇を手に縁端《えんばな》で涼んでいるうち、こっそりと私はまだ明るい町へ抜け出した。早くも燈火《ともしび》のついた柳屋の店先にはもう二三人若者が集まっていた。子供たちは私を珍しがっていろいろと海辺の話を聞きたがったがそれにも飽きると餓鬼大将の金ちゃんを真先に清ちゃんまでも口を揃えて、
「お尻《しり》の用心御用心」
 とお互い同志で着物の裾《すそ》を捲《まく》り合ってキャッキャッと悪戯《わるふざ》けを始めたがしまいには止め度がなくなってお使いにやられる通りすがりの見も知らぬ子のお尻を捲ってピチャピチャと平手で叩《たた》いて泣かせる、若者は面白ずくに嗾《け》しかける。私は店先に腰かけて黙って見ていたが小さな女の子までも同じ憂《う》き目に逢ってワアッと泣いて行くのを可哀《かわい》そうに思った。
 間もなく町は灯《ひ》になって見る間《ま》にあわただしく日が沈めばどこからともなく暮れ初めて坂の上のほんのり片明りした空に星がチロリチロリと現
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