くらか》祝儀を出すとまたワッショウワッショウと温和《おとな》しく引き上げて行くがいつの祭りの時だったかお隣の大竹さんでは心付けが少ないと言うので神輿の先棒で板塀を滅茶滅茶《めちゃめちゃ》に衝き破られたことがあったのを、わが家も同じ目に逢わされはしないかと限りなき恐怖をもって私は玄関の障子を細目にあけながら乳母の袖の下に隠れて恐々神輿が黒門の外の明るい町へと引き上げて行くのを覗いたものだった。子供連もてんでに樽神輿《たるみこし》を担ぎ廻って喧嘩の花を咲かせる。揃いの浴衣に黄色く染めた麻糸に鈴を付けた襷《たすき》をして、真新しい手拭を向う鉢巻《はちまき》にし、白足袋《しろたび》の足にまでも汗を流してヤッチョウヤッチョウと馳け出すと背中の鈴がチャラチャラ[#「チャラチャラ」に傍点]鳴った。女中に手を曳《ひ》かれて人込みにおどおどしながら町の片端を平生の服装《みなり》で賑わいを見物するお屋敷の子は、金ちゃんや清ちゃんの汗みずくになって飛び廻る姿をどんなに羨ましくも悲しくも見送ったろう。
やがて祭りが終っても柳屋の店先はお祭りの話ばかりだった。向う横町の樽神輿と衝突した子供たちの功名談を妬《ね
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