を潜っていた子供の顔は人馴れぬ獣のように疑い深い眼つきで一様に私を仰ぎ見た。
その翌日。もう長屋の子と友達になったような気がして、いつもよりも勇んで私は崖に立って待っていた。やがてがやがや[#「がやがや」に傍点]列を作ってやって来た子供たちも私の姿を見て怪しまなかった。
「坊ちゃん、お遊びな」
と軽く節をつけて昨日私を見つけた子が馴れ馴れしく呼んだ。私は何と答えていいのかわからなかった。「町っ子と遊んではいけません」と言った乳母の言葉を想い起して何か大きな悪いことをしてしまったように心を痛めた。それでも、
「坊ちゃんおいでよ」
と気軽に呼ぶ子供に誘われて、つい[#「つい」に傍点]一言二言は口返えしをするようになったが悪戯子《いたずらっこ》も、さすがに高い崖を攀《よ》じ登って来ることは出来ないので大きな声で呼び交《かわ》すよりしかたがなかった。
こんな日が続いたある日、崖上の私を初めて発見した魚屋の金ちゃんは表門から町へ出て来いという知恵を私に与えた。しばらくは不安心に思い迷ったが遊びたい一心から産婆や看護婦にまじって乳母も女中たちも産所に足を運んでいる最中を私の小さな姿は黒門を
前へ
次へ
全38ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
水上 滝太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング