てもらいたいと思ったがこちらから声をかけるほどの勇気もなかった。全く違った国を見るように一挙一動の掛け放れた彼らと、自分も同じように振舞いたいと思って手の届くところに生《は》えている虎杖《すかんぽ》を力|充分《いっぱい》に抜いて、子供たちのするように青い柔かい茎を噛《か》んでも見た。しくしく[#「しくしく」に傍点]と冷めたい酸《す》っぱい草の汁《しる》が虫歯の虚孔《うろ》に沁み入った。
こうしたはかない子供心の遣瀬《やるせ》なさを感じながら日ごと同じ場所に立つお屋敷の子の白いエプロンを掛けた小さい姿を、やがて長屋の子らが崖下から認めたまでには、どうにかして、自分の存在を彼らに知らせようとする瓦《かわら》を積んでは崩《くず》すような取り止めもない謀略《はかりごと》が幼い胸中に幾度か徒事《あだ》に廻《めぐ》らされたのであったがとうとう何の手段《てだて》をも自分からすることなくある日崖下の子の一人が私を見つけてくれたが偶然上を見た子が意外な場所に佇む私を見るとさもびっくりしたような顔をして仲間の者にひそひそ[#「ひそひそ」に傍点]とささやく気配だった。かさかさ[#「かさかさ」に傍点]草の中
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