は明瞭につかむ事が出來ないで、彼の心事を疑つたが、餘り勸めるので、
「それでは何處にでも連れて行つて呉れ給へ。」
 と同意する事になつた。
「サア何處というて私もよくは知りませんけれど、平生私達の行く處でよろしいですか。」
 と幾度も念を押した上で、彼は道頓堀の北河岸の西洋料理屋兼カフヱに自分を連れて行つた。
 平生自分が、大阪特有の安音樂の絶間なく奏されてゐる酒場《バア》を、口を極めて罵倒してゐるので、
「此處は靜でよろしい。」
 と案内者が自慢する通り、少し陰氣に思はれる程ひつそりした家だつた。
「今晩は、お久しうおまんな。」
 とお白粉《しろい》を塗つた給仕の女は少年を見て挨拶した。
「近頃は××は來ないか。」
「つい昨日も見えてでした。」
「△△は。」
 彼は一緒に此の家に集る友達の名前を云つて訊いた。
 餘り上等で無い料理を喰べながら、何か酒を飮むかと云ふと、
「強い酒でなければ醉はんからつまらん。」
 と答へて、先生は麥酒《ビール》を飮んでゐるのに、彼はアプサンを命じた。赤木桁平氏ではないけれども、此の少年を前にして自分は遊蕩文學撲滅論をしないでは安心してゐられない心持に惱
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