まされた。
「勉強したまへ、勉強したまへ。」
自分は彼の顏を見る度に、眞面目に學校に通つて、眞面目に勉強するのが小説家となるにしても、第一である事を説いた。丁度昔、自分が此の少年の年頃に人々に云ひ聞かされた通りに。
春になつて、少年は無事に商業學校を卒業し、自分も大に安心した筈だつたが更に又新しい心配が何時の間にか頭を持上げて來てゐた。
「先生、私はどうしても續けて學校に通つて勉強せんとあかんと思ひます。」
彼は眞劍になつていた。
「そりやァ學校は續ける方がいいさ。」
自分は、あれ程學校を厭だ厭だと云つてゐた彼が、急に勉強心の出たのを不思議がりもせず、怠けて落第でもされては大變だと、ひどくびく/\してゐた後であるから、勉強し度いといふのに安心して一も二もなく贊成した。
「けれどもお母さんが許さんから。」
少年は殘念さうな口吻で云つた。その殘念さうな口吻に氣が附くと、こいつはしまつたと、自分はとつさに思つたのである。
母親は息子の卒業と同時に、直ぐにも亡き夫の殘した爲事に就かせようとし、親類も勿論同じ考へで、殊に少年が文士たらんとする志望を抱いてゐる事は、働くといふ事には必ず
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