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第六の問。今後も創作を發表しますか。
第六の答。氣が向けばするでせうが、兎に角自分なんか駄目です。以前書いたものなんか考へても冷汗です。
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 傍から梶原氏が、あれは既に作者自身が葬つたものであると、自分の小説集「心づくし」の序文を引いて説明してくれた。
 右の如く簡短な質問に對する簡短な返答で苦痛の五分が過ぎた時、自分は後には何も氣がかりな事の殘つてゐない爽快な心持で姉や知人の群に歸つた。梶原氏は、自分の新聞記者に對する應對が意外に練れてゐると云つて稱讚し、これを海外留學の賜《たまもの》とする口吻をもらした。君はなかなかうまいなあ、と云つて彼は自分の肩を叩き、自分も、うまいだらう、と云つて笑つた。
 船の人々に別れを告げ、上陸してからは先づ湯にでも入《はい》つて、ゆつくり食事でもしたらよからうといふ人々の意見に任せて、神戸の町の山手の或料理屋につれて行かれた。姉夫婦は今夜大阪まで、梶原氏は京都まで同行しようと云つてくれた。
 事毎に新鮮な印象を受ける久々の故郷は、自分を若々しくした。姉は自分をつくづく見て、何時《いつ》迄たつても小僧々々してゐると
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