社の寫眞係りが、籐椅子を据ゑ、いかにも美術的の趣向だといふやうに浮袋を側に立てかけて、扨て自分を腰かけさせた。
馬鹿々々しい事だと思つた時は、もう寫眞は撮つてゐた。それでおしまひだと思つて立上らうとすると、新聞記者は最初の約束を無視して、是非とも話をしてくれと迫つて來た。約束が違ふではないかと詰《なじ》つても、平氣で、値うちの無いお低頭《じぎ》を安賣りするばかりである。しまひには一分でも二分でもいゝと、縁日商人のやうな事を云ひ出した。それでは五分丈約束するから、その五分間に質問してくれと云つて、自分はかくしから時計を出して掌に置いた。
二人の中のどつちが朝日の記者で、どつちが毎日の記者だつたか忘れてしまつた。後日の爲に名刺丈は取つて置いたから机の抽出でも探せば姓名は判明するが、それは他日に讓らう。兎に角此の二人は、他人の一身上に重大な關係を惹《ひき》起すやうな記事を捏造する憎むべき新聞記者であつた。
五分は瞬間に過ぎた。時計の針が五分※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る間に自分が質問された質問と、答えた返答は左の如きものであつた。
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