人であらうと思ふ。第一文章がうまい上に、知らない人が讀むと如何にも眞實《ほんと》らしく思はれる程無理が無く運んでゐて、此種の記事にはつきものの誇張を避けたところなどは、嘘詐《うそいつはり》の記事では黒人《くろうと》に違ひない。
殊に最後へ持つて來て「『父の業を繼いで保險業者になるか友人の盡力によつて文學者になるかそれは歸京の上でなければ分らず未だ未だ若い身空ですからね、一向決心がつきません、ハハハハハ』と語り終つて微笑せり」といふ一文で結んだところは、全然自分の會話の調子とは別であるが、知らない人には面目躍如たりだらうと思はれる。若しこれが他人の身の上に起つた事だつたら、自分も此の記事を信じたに違ひない。自分は此の如き達筆な記者を有する大阪毎日新聞の商賣繁盛を疑はない。
自分はいかにもをかしな話だといふやうにわざと平氣な顏をして人々にその記事を見せたが、梶原氏も姉夫婦も、ひどく眞面目な顏をして自分を見つめてゐるのであつた。
汽車が大阪に着くと姉夫婦は其處で下りて、自分は梶原氏と二人で殘つた。さうして京都迄の小《こ》一時間に所謂水上瀧太郎廢嫡問題なるものの由來を同氏によつて傳へられ
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