。君がさう云ふ希望があるんなら……。」松村はややしばし考へて居たが、
「東洋演芸などはどうかね。」
「あの八重洲町にある会社でせう。」
「さうさ、あそこに専務がいるんだ。僕は推選を頼まれてるんだけれど。」
「面白いですな。あれなら私に適任でせう。敢て自ら薦めてもいいと思ふんです。」
「まあ考へておこう。あすこも今社債問題で悩んで居るんだ。僕が……」
話の中に電話の呼鈴がなつた。松村は起つて之と通話を済ませて、
「これがあの問題だ。もうすつかり出来たところを、あの川下のやつめ、ぶうぶう云ひ出しやがつて、之から一つ怒鳴りつけてやらう。」
会ふことがしげしくなるにつれて二人の友情は蘇《よみがへ》つた。松村もだんだん白川を手近く引寄せたいと思ふ様になつた。
白川の顔を見るなりふつと厭な気がした松村はすぐ気分をかへて笑を浮べた。けれども眼ざとい白川はこの刹那の変化を見のがしはしなかつた。しかし、それを憎む心もちにもなれないのみならず、むしろ松村の苦しげな内心の動揺に自らの胸の顫《ふる》へを覚えた。彼にはまだ痺《しび》れきらない真心が閃いて居ると思はれたからである。
「いや。」松村は軽く会釈
前へ
次へ
全43ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング