かし貴方だけですぜ、『君つ』と云つて来れる人は。『白川が来たよ』つて、大将は貴方の噂をして喜んでゐますよ。本統[#「本統」は底本では「本続」]ですよ。」
「それは俺も知つてるんだがね。」
「まあとにかくやつていらつしやい。悪いことは無いから。実際心細いんです。仕事は忙がしくなる、手は拡げる。しつかりした相談相手といつちや僕だけでせう。」
「それでも気がついて居るのかい。」
「そりやね。僕と二人つきりになると、打明話があるんです、あの位利口な人ですから、満更のほほんになつちやゐませんや。」
こんなことが度々重なつたので、白川も我を折つて此度の相談をもちかけて行つた。
「私もねえ、かうして居れば、かなり贅沢にくらしては行けるがね。まだ仕事がし足りないんだ。片手業と云ふのもをかしいが、どうでせう、少し働いて見たいんです。何か貴方の仕事のうちで私でやれさうなものがあつたなら、分けてくれませんか。」ある時白川はこんなことを松村に云つたこともあつた。十分に打解けるつもりでゐてもこんな生真面目な話になると「君」とは云はないで「貴方」と云はなければならないのを白川は本意ないことに思つた。
「さうかい
前へ
次へ
全43ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平出 修 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング