装つた。真に深い愛情と強い執着とが俺にあつたなら、俺はどうしてぢつとして居られよう。単なる生理上の器械だとして、彼の肉体をある快味の放散にのみ使用することだけで、俺の満足が得らるべき筈ではないのである。畢竟は俺は彼にも猶俺自身をつつんで居た。従つて、彼も亦自身をやはりつつんで居たのであつたらしい。それが今夜はさうでない。彼のこの姿は即ち彼自身であつた。実在である。真実である。これだ。世間の男が一様に憧れ求めて居たのは、この姿だ。初恋の女に求めたが疑惑と遠慮とがあつて、遂に捉へそこねた。家庭はあまりに物質的である。捜しあぐねた男達は淫蕩の巷に趨つた。そこには虚偽が一切を領して居た。舞の扇の先にも虚偽のわざとらしい線が描かれてゐる。虚偽の情味を購ふに虚偽の財宝《ざいはう》を以てするのであつた。多くの男の眼は白い、はち切れさうな、膩の多い女の肉をあさり求めた、僅に息づいて居るものは本能であつた。それは浅ましい、むさくるしい、かつては恥を感じたと云ふことのない盲目的のものであつた。美しい女の美と見えたものは、実は心の栄養の全く不充分な、そして疾《やまひ》と疲《つかれ》とが産んだ反自然《はんしぜ
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